嘘のような、ほんとの話。

大阪の下寺町を一人、歩いている時のことでした。

あたりはすでに薄暗く、古い建物のお寺が並ぶ場所だけに、風が吹くと、なんだか少し身ぶるいしたくなります。

寺の門はどこも閉じられていました。

ところが一箇所だけ、門の開いているお寺がございます。

門の真正面には、荘厳な御堂があり、その扉の、ほ〜んの隙間から、光がさしてきました。

異様な雰囲気を感じ取り、ほのかな恐怖よりも好奇心がまさり、そちらの方へと自然に足が向かいます。

御堂の前に来ると、人間ではないような、大きな影が蠢きました。

思わず、あっ!と声をあげそうになりましたが、なんとか堪えて息を呑みます。

その大きな影は、まるで手招きをしているようで、おいで、おいで、中までおいで。と、そのように語りかけてくるような感じがするのです。

ここまで来たのだから、と御堂の扉の、そのほんの少し開いた隙間に顔を近づけて、そおっと覗き込みました。

わぁ〜!今度は感歎の息が漏れました。

目線の先、そこには黄金の光に包まれた仏様が鎮座しておりました。

言葉はなくとも、完全に呼ばれたのだと、そのような思いが脳裏をかけ巡り、身体中に電気が走るような感覚で満たされました。

あとはトントン拍子のように話は進みまして、お寺さんで初めての奉納舞台を上演する運びとなったのです。

仏様が導いてくださったお寺との御縁は、このようにして繋がったのです。

仏様からのメッセージは、光や影として、さらには感覚へも伝えてくださるのです。

信じがたい体験というものは、皆様の元にも届けられているはずなのです。

ちょっと聞くだけでは怖い話でも、思考を働かせてみると、実は有難い話であったりするものです。

なんだか信じられない話であっても、ほんの少し信じてみると、そこには違う世界が見えてくるのです。

草むらを見ているだけでは見えなかったけれど、もしかして、その先に何かあると思って草むらをかき分けて覗いてみると、そこには満開のお花畑があったりするのは、珍しいことではないように。

目の前に見えるものだけがすべてではなく、人間と人間だけが御縁を結ぶのではないという、そんなちょっと奇跡なお話でした。