ボヤくおっさん
車内で向かいに座ったおっさん
「自分とな、自分の産んだものしか愛せねえ」
一瞬、カッとコチラを見てくる
「それが女と違うか?!」
そう言って、ちょっと詰め寄ってきた
「愛されたくて、愛するフリしか出来んのだよ」
なんかヤバい、と思って身体をよける
「そうだ欲望しか知らんのだよ、男はな」
次の駅で降りようと思った
「だけどよ、自分の産んだものしか愛せねえ方が、欲望だと思わんか!」
そのおっさんは、立ち上がった
「つまりよ、自分以外を愛せる人間なんていねえんだ!」
言い放って隣の車両へ移動した
なんなんだ、あのおっさんは
奥さんに、捨てられでもしたか
たしかに、どんなに愛し続けようと思って一緒になっても、別れるのが夫婦
どんなに気持ちがすれ違っても離さないのが、子供かもしれない
男女は欲望で繋がり、子供は欲望の塊として誕生し、塊を自分の分身として……
それなら人間が本当に愛するとは、どういうことか
無償の愛って、なんだろう
おっさんのボヤきに、なんだか考えさせられる