あるプロデューサーの話

元テレビ・映画関係の敏腕プロデューサーであり、現在は某劇場をいくつか担当している人物の話である。

「結局、役者というのは人間性が大事ですよ。事務所やマネージャーの力、それはもっともではあるが、性格が横柄であっちゃ、次は呼ばれない。目に見えて性格が悪くなくたって、どっか鼻につくのは、隠してたってバレるもんです。それで二度とは呼びたくないと思わせている、ということにも気づいちゃいない。とくに今は事務所に所属せずに、あるいは事務所をやめてフリーで交渉してるのも多いが、もっとギャラをよこせだの、もっと扱いをよくしろだの、それが大した演技もせず歌えもせず踊れもせず、自分だけで出来た気になって、まるでひとりよがりなのには辟易とするわけですよ。芸能ってのは結局は人間を扱うもんですから、人間性がいいのに限る。どうしたって画面越し、ステージ越しにも伝わってしまう。愛想よくしてりゃいいとか、八方美人であれ、というのとも違う。おとなしくたって、孤立してたって、ものづくりに対する情熱はこちらには伝わるんです。これは役者に限らず、芸能に携わるすべての人に共通することですがね。それで人間性のいいのは、最終的には交渉なんかしなくたって、その態度や姿勢、つまりは人柄でギャラが上がったり、次も呼びたくなるわけだから、続くんですよ。こういうのって、どんな職種でもおんなじかもしれませんがね。売れない、事務所がいけない、プロデューサーがよくない、だなんて言ってる、思ってるようなのは、それよりもまず、ひとりよがりをやめる努力と、まわりへの気遣いや思いやりの精神を養ってはどうかな。それが出来るのが、この世界の難局を乗り切った先にも生き残るような、名役者になるだろうね」