逆さの日

ある年の4月27日のこと

それは朝方近くだったのです

眠れずに夜更かしをしていると

風がテーブルクロスを揺らすのです

ほんの一瞬のことでしたが

確かにこの目で見たのです

すぐ隣にある窓ガラスを確認しますと

ちゃぁんと閉じられています

ふんわりと舞ったはずのテーブルクロスは

元に戻っていますが

ほのかな薫りがするのです

「あっ鰻だ」

なぜだかそう思いました

そうして調べてみると

その年の7月24日は土用の丑の日でした

4月27日を逆さにすると7月24日になります

その事が夏まで気になっていたものですから

その年の土用の丑の日に鰻を食べに行ったのです

その鰻屋さんの玄関を開けると

そこには昔とてもお世話になった人と

おんなじ名前の人がいたのです

奇しくもそのお世話になった人も

生きている頃は鰻屋をやっていました

ですから今は亡くなっているのですが

それがちょうど年忌法要の年にあたるのでした

そうして命日がやっぱり7月24日だったのです

よくよく考えてみると

その人の生前のお誕生日は4月27日のはずでしたから

逆さの日なのです

よくあの世とこの世は逆さである

なんて言いますから

あの風はきっと

その人からの「想い出しておくれ」という

お知らせだったのかもしれません

それにしてもあの世はすごいところです

風は吹かせるし

鰻の匂いはおこさせるし

ただそのことをメッセージだと受け取ることができるか

それは物質社会に生きる人間の想像力

それに尽きます

そういえばその鰻屋さんで

お世話になった人とおんなじ名前の人が

なぜだか生ビールを一杯ご馳走してくれたのです

そうなんです

生前のその人も生ビールが大好きだったのです

なんだか天国からの贈りものみたいな気がして

のどごしと共に

ほんのりしょっぱい味がしたのです

頬に滲んだのは汗か涙かわかりませんが

その日の鰻と生ビールの味が最高であったことは

いまでもこの舌が覚えているのです

想い出はこうして鮮明に残っていくものなのでしょう