真夜中のインターフォン

少し怖いお話の予感がいたしますねぇ。

お嫌いな方は避けて頂いても結構ですが、決して恐怖の中へと誘うつもりはないのです。

さて。

残暑のきびしい真夜中に体験した、本当の出来事です。

丑三つ時も近づいて、脳みそが身体を休めなさいと合図を出しました。

灯りの消えた真っ暗な部屋で就寝をしようと、お腹にタオルケットをかけて、瞼を合わせます。

その日は深夜までかなり蒸し暑く、寝苦しさを感じましたので、自然の風を取り込むために、半分だけ窓を開けます。

すると心地よい体感温度となり、熟睡の予感が訪れます。

うつら、うつら、と眠りかけたその時でした。

ピンポーン。

暗闇に鳴り響く音に仰天し、心地よい感覚に陥っていた瞼が鋭利に冴えまして、両の眼をぱっちりと見開いたのです。

こんな時間に誰が来たというのでしょうか?

瞬時に時計を確認しました。

1:53。

深夜です。

音を立てずに、灯りもつけずに、そっと、ただそおっと、一歩ずつ、玄関へと足の裏を滑らせるように忍ばせました。

人間であれば、普通の感覚を持っている人間であるならば、こんな時間に、人様の家を訪ねるはずがないのです。

ただし、普通の感覚を持たない人間だとしたら、それならば、かなりの注意が必要です。

おそるおそる、自分の気配を隠しながら、玄関の前に誰か立っていないか、窓越しに映る影はないか、確かめてみようと思ったのです。

玄関の前まで来ると、ガサッ!と音がします。

ヒャア!と悲鳴をあげそうになり、それをなんとか堪えます。玄関の内側に置かれたサンダルを蹴ってしまったのです。その音を出した犯人が、自分の左足の先っぽであるとわかり、ひとまず救われた気持ちになりました。

今度はそのサンダルをゆっくりと履いて、玄関ドアに嵌められた、丸くて小さな覗き穴に、片方の目の玉をそうっと、瞬きをせずに近づけていきます。

ドアの向こうに居る誰かと、目が合ってしまった……。そんなことになったら、今度こそ本当に唇を震わせながら、甲高い悲鳴をあげてしまいそうな、漆黒の闇に覆われた玄関の外側。

いいや、そこには誰も立っていなかったのです。

少〜しだけ安堵したけれども、今度は玄関の横にある窓ガラスの方向へと、瞳をゆっくり移します。

ここには、とうとう得体の知れない人影が、ぬっと現れてしまった……。としたら。

いいやいいや、この暗闇では、そんな風に空想だけが飛躍していくのです。

ふむ。

玄関ドアの向こう側にも、窓越しにも、人間らしき姿はないのです。

すると。するとですよ、それでは一体何者が、玄関のインターフォンを鳴らしたのでしょうか?それは一体、どういうことだと思いますか?

ねえ、一体なにが……。 この続きは、また今度にしましょうか。